赤ちゃんの研究をしている大学教授とミキティ(藤本美貴さん)の共著ということで、目に留まったこちらの本。
著者は、東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系教授で、赤ちゃん学、発達認知神経科学、機械学習の研究者。
赤ちゃん学を本にまとめるにあたり、ナビゲーター役としてミキティを指名。
タレントを前面に出すとは、商売上手ですな。
私もミキティの帯に釣られてこの本を手に取ったわけですし。
三歳児神話を斬る!
「三歳まではお母さんの手で愛情豊かに育てられるべき」という「三歳児神話」は、科学的ではない、と否定している著者。
「三歳児神話」は、第二次世界大戦後に行われたイギリスの研究が根拠になっています。
イギリスには戦争で傷ついた人や、親や身寄りを失って孤児になった子どもたちのための施設がありました。
この施設に勤めていた小児精神科医のボウルビィという人が、そこで生活していた子どもたちを観察して報告したものです。
このボウルビィが最初に言い始めたのが、「愛着理論」と呼ばれるものです。
「乳幼児と特定の誰かの間にある情緒的に特別な関係」を愛着関係と呼び、幼い頃にこの愛着関係がうまく結べなかった子には、将来問題が起きる可能性が高いという考え方です。
ボウルビィは、乳幼児期に豊かな愛情が与えられずに育った子どもたちには、身体的・精神的に重大な問題が生じると報告しました。
これが学会等で大きく取り上げられ、人から人へと伝わるうちに形を変えてしまったのでしょう。
いつのまにか「赤ちゃんの世話をする人」が「お母さん」と限定されて、「三歳児神話」として知られるようになったのです。
三歳児神話は、働くママにとっては足かせのようなものですが、著者は「安心して復職してください」と述べています。
アメリカのNICHD(子どもの健康と人間発達研究所)の長年にわたる研究でも、小さな頃から保育園に預けられて育った子とそうでない子も、成長の違いに大きな差が見られなかったという結論だったそう。
安心しました。
保育園激戦の中、0歳で預けざるを得なかったママ、多いと思います。
狼少女はいなかった!
早期教育について、焦る必要はないですよ、と著者。
3歳前後から、急激に発達していた脳の変化が緩やかになります。
それを根拠として「3歳を過ぎたら間に合わない」と早期教育が薦められることがありますが、脳の変化はゆるやかになるとはいえ、変化がピタリと止まるわけではない、と著者。
焦って早期教育や英才教育をしなくても良い、本人が頑張りたいと思ってからで十分間に合う、と。
重い病気を治すために3歳7ヶ月で脳の半分くらいを切除した男の子を例に挙げています。
彼の脳は足りない機能を残った部分が補って、ごく軽い障害が手足に残ったほかは、不自由なく生活できるようになったそう。
そして、驚いたのが『狼にそだてられた子』という本が嘘だった、というくだり。
何人かの科学者が事実かどうか確かめるための調査を行ったところ、この二人が狼に育てられてたという証拠はどこにもなく、本に掲載された写真も別のモデルにそれらしいポーズをとらせて撮ったものとされました。
また、狼が人間の赤ちゃんを数年間育てたということも、狼の生態上ありえないということになっています。
そして現在では、この二人は重度の障がいを抱えた子どもたちだったと結論づけられているのです。
狼に育てられた子は、その後人間が手厚くケアをしても人間らしくなれなかったことから、乳幼児期の育て方が重要、という学説の根拠となっています。
3歳を過ぎたらもう間に合わないというのも、基本的にはこの話をもとにした考え方ですから、もう根底から崩れてますね。
パパもオキシトシンを!
男性の育児参加についても、この本で取り上げています。
オスが子育てに参加するのは、哺乳類では、人間とプレーリーハタネズミの仲間とサルの一部くらいしかないそう。
オスが子育てに参加しないのは、オスは自分の子どもだという確信がないため、別のオスの子どもの世話をしていたらすごく無駄なコストなので、そこには力を注がないようになっていったのかも、と著者。
でも、男性が育児に参加すると、男性自身のメリットも。
以前、だっこでオキシトシンを分泌させて、赤ちゃんもママも幸福感を高めましょう、という本を読みましたが↓
今回読んだ本でも、男性自身のメリットとして、オキシトシンを挙げています。
人間の男性でも子育てをしているとオキシトシンの分泌量が増えるのだそう。
オキシトシンが増えれば、心がやすらぎ、幸福感や愛情も深まります。
世の男性よ、仕事で疲れて帰ってきた時こそ、子どもを抱っこしよう!
子育てに関わることが、仕事の疲れを癒やしてくれるはず!
こちらの本、科学的根拠に基づいて赤ちゃんのどうして?に答えてくれますので、信頼が置けます。
でも、研究者として自戒を込めて、エピローグが語られています。
本書は、藤本さんとの対話を通じて、子育てで出てくる疑問や不安に対して、できる限り科学的知見から答えることを目標としました。
しかし、そもそも科学的であることの本質は、常に書き換えられることに注意して下さい。
ある時代の科学的常識が、別の時代には笑ってしまうような非常識になっていることもしばしばあります。
リケジョの端くれとしては、この考え方、好きです!
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